ホテル・ルワンダ(映画:テリー・ジョージ監督)
1994年のルワンダでのフツ族のツチ族大量虐殺事件のなかで1200人のツチ族の命を救うことになったホテルオーナーの話で、
「アフリカ版シンドラーのリスト」とも言える、実話を元にした映画です。
アカデミー賞ノミネートを果たしながらも、日本では配給会社の買い手が付かず未公開となっていましたが、ネット上(mixi)での上映を求める署名活動が実を結んで公開されることになったという話題作です。
実際映画館では満員で立ち見でした。
恥ずかしながら事件のことはあまり詳しくは知らなかったのですが、
映画は一般人の視点から事態の推移が分かり易く描かれていて、自然に状況が理解できるようになっていました。
1994年というごく近年の悲劇を世に知らせる為の作品ですが、単なる報道映画ではなく、思想を押しつける映画でもなく、
あくまでエンターテインメント作品として見応えのあるドラマを見せた上で、世界に情報を発信する作品となっている、いい映画だと思えました。
結果的に1200人の命を救くことになったホテルオーナーが、あくまで「ごく普通の男」として描かれているのが共感を感じます。
最初はただ家族を守りたいだけだった彼が、彼やホテルを頼ってきた人々を見捨てられなくなる気持ちの変化や、それを後悔する気持ち、が自然に理解出来て、
誠実に職務を果たそうとする姿。賄賂・おべっか・懇願・恐喝と普通の人が考えられそうなあらゆる手を使って、どうにか事態を乗りこえようとする姿など。
その善良さも弱さも、実に自然に見えて感情移入出来ました。
それにしてもこの民族間の争いのやりきれないこと。
「フツ族」と「ツチ族」の対立の大本の原因は第一次世界大戦後の先進国の都合で、容姿の見た目で「フツ族」「ツチ族」と部族分けをして支配に利用したのがきっかけなのですね。
(もうちょっと調べると、元々は農耕民族のフツ族がいたところに15世紀ごろに狩猟・遊牧民族のツチ族が来たという歴史はあったようです。
ヨーロッパの介入がなければそのまま民族の同化が進んでいたであろうところに、ヨーロッパが支配に都合のいいように容姿を元にして改めて分類してしまったという事のようですね。
パッと見た目では区別など殆どつかなくなっているのに、IDカードで明確に分かるようにしてしまって、対立の種になったという事のようです)
作られた差別意識であって、本当はばかばかしい事のはずなのに、虐殺に発展してしまう狂気。
映画ではフツ族→ツチ族の虐殺が描かれますが、この後にはツチ族→フツ族の虐殺に発展したとのこと。
まさに「憎しみの連鎖」でまったくやり切れないです。
これがほんの10年程度前の話なのですね。
日常が突如崩壊していく感覚は他人事に思えませんでした。世の中本当に一寸先は何が起きるか分かりませんから。
そして、劇中でのジャーナリストの「この虐殺を世界に流しても世界の人々は怖いと思うだけですぐに夕食を続けるだろう」といった台詞。
まさに真理で胸を抉られました。(事件の事情を詳しくは知らなかった身としては尚更)
テレビで見るニュースの向こうでは、画面で見えるよりはるかに様々な事情があったりしますが、
見ている側としてはなかなか知り得なかったり、流してしまったりしますよね。
それは現実問題仕方なくもあるのですが、単に遠くの出来事としてではなく身近なものとして感じる感覚は持っていねかればといけないなあとも思いました。
なかなか難しかったりもするのですが。
いま見ておくべき作品だと思えました。
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