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2007年2月20日 (火)

ジョジョの奇妙な冒険・ファントムブラッド(映画)と今月のスティール・ボール・ラン

(羽山淳一監督)

1987年から週刊少年ジャンプで連載が開始され、主人公が世代交代することで2007年の現在まで20年に渡って続いている、荒木飛呂彦氏作の長寿人気漫画の「第1部」のアニメ映画化作品です。
(現在は「第7部・スティール・ボール・ラン」としてウルトラジャンプに連載中)

『人間賛歌』を全体テーマとしたシリーズの発端に当たる「第1部」は、やがて道を違える2人の青年の因縁と戦いを描いた話(超省略ですんません)
コアなファンの多い作品で、自分も連載開始当初から読み続けてきた作品だったので期待していたのですが…

さて、
映画を見た感想を一言で言うと、『薄かった』です。あらゆる面で。

以下、原作を知っていることを前提とした文章になってしまっていますので御勘弁。
正直原作ファンでなければあまり行く人はいない映画だと思いますので。

例えば、原作の人気キャラ『スピードワゴンが出ない』と言うことなどは、見る前に知っていたのですが、
事前に、久々に単行本1~5巻を読み返してみたら、それだけで3時間くらいかかったので、
『逆に考えるんだ。「90分程度の映画に全ての内容を入れられるはずが無いのだから、削るところを削って一本の映画として完成度を上げてくれればいいさ」と考えるんだ』
と、思っていました。見る前は。

で、見たところ、 …薄い、本っ当―に薄い;
脚本も、人物描写も、戦闘描写も、セリフも、絵も、全ての要素が原作を数倍に薄めて上っ面をなでたような極めて薄っぺらい映画でした。
原作の特徴的な名セリフや絵を、ことごとく、わざわざ平凡で陳腐なものに置き換えて“荒木飛呂彦っぽさ”を消し去って原作の良い部分を削ぎ落とし、かといってそれに変わる映画独自の工夫も主張も上乗せしない、
原作ファンにも、それ以外の映画ファン・アニメファンにもお勧め出来るところが無い、どういう層に向けて作ったのかが分からない、ただ退屈だけのな作品になっていました。
映画版デビルマソ」のような『見ているだけで脱力感と殺意が沸きあがる駄作』とまでは言いませんが、ただただ『普通に出来が悪いアニメ』です。

★以下ネタバレ注意。

原作からの改変により、ストーリーや人物の行動も整合性が合わないところが多く気になりました。
ツェペリは何故か「ジョースター邸の火災が起きる前に」(その時点では吸血鬼のことも石仮面のことも知らない)中国人(ワンチェン)を訪ねることで「ジョースター家の石仮面」に辿り着いたり、
ディオはろくに事前情報も無しに「波紋法」の事をいつの間にか理解してたり。

各人物の「内心の声」がことごとく省略されて、口に出すセリフも肝心の部分が省かれているので、各人も動機も人生観も分からず、単なるアホに見えてしまうのも痛いです。ディオもジョジョも父親も。
・例えばディオは、「ジョースター家をどうするつもりなのか」が語られずに、ただ低レベルないじめを行うばかりなので、彼の狡猾さや「そこにシビれる!あこがれるゥ!」様なダーティーな魅力は見えず、単なる頭の悪い乱暴者に見え、
・例えばジョジョは、「いじめっ子にあえて名前入りのハンカチを見せる」シーンも無くディオの狼藉には頼りなく狼狽えるばかりで、紳士たらんとする精神の高潔さもない、単なる軟弱で裕福なお坊ちゃんと化し、
・例えばジョジョの父は、「あえてジョジョを厳しく育てた」描写もセリフもカットされ、「ディオの父親の盗みをあえて見逃す」優しさの描写も無く、人を見る目の無いおっさんに貶められ…等々。
…大事なセリフを省略する代わりに、無駄に無言で黙り込むシーンやどうでもいい言葉を話す時間はあるので「尺が足りないから」セリフを削ったとも思えません。あれは「行間を読んでね」という演出なんでしょうか?

本来ならば、ただ対立していただけでもない、表面上とはいえ和解をして青春の数年を過ごしたはずのジョジョとディオの姿も全く描かれないので、2人の奇妙な絆も強調されずじまい。

また、駆け引きも何もない“殴るだけで敵が爆発する戦闘シーン”も辛かったです。
「波紋法」という独自性の高い設定はほとんど生かされません。
ネタバレですが、ディオとの決着ですら「ただ殴るだけ」
“絵柄”がジョジョと言うよりは「北斗の拳」っぽいだけでなく、波紋法の描写まで北斗神拳っぽかったようにも;(北斗の拳を貶めているのでは無いので誤解無きよう)
(絵がどうにも荒木氏の画風からかけ離れて見えるのは、「色気」が足りないんでしょうね。動画で荒木絵を再現するのは難しいとは思いますが)

先にも書きましたが、映画にするために、原作から要素を削ったり変えたりするのは当然のことで仕方有りませんが、それでも一本の作品としてまともに成り立っていると言えないまでに削りすぎては、何のために映画を作ったのか分かりません。
この映画の問題点は『時間が足りなかった』のが原因なのではなく、脚本と演出があまりにお粗末すぎなのだろうと思います。
(そして、あまり言いたくないですが、絵のクオリティもTVアニメレベル以下かと)

とりあえず、『制作者が原作に愛も敬意も無い』と言うことはよく分かりました。
監督はこの映画が初監督のようですが、普通に原作を尊重して作っていればまだ「それなりの出来」にはなったでしょうに。(と言いつつ、監督もしくは脚本家だけの問題とは限りませんけどね。実際の内情は分かりませんし)

最終的には、リサリサ(赤ん坊)も登場しないので、人生の最後のギリギリの状態でジョジョがエリナに「生きること」を示す、「生命の尊さと誇り高い意志」を象徴するシーンも存在しません。スタッフはこの映画で一体何を示したかったんですかねえ…。

リサリサがいないので、ジョセフ・ジョースターは誕生しないと思われます(苦笑)
スピードワゴン財団もストレイツォも存在しないので、第2部は成立しないでしょう。
少なくとも『このスタッフで』『この映画の続きとして』第2部が作られることは無いだろうと考えれば、ある意味救われるかも知れません。

映画を見ていて、中盤頃から自分は、「デビルマソとまでは言わないけどキャシャーソでも見るかのように」冷たい残酷な目をしていたと思います。(まあ、キャシャーソにはまだ制作者なりの愛はあったと思いますが)
『かわいそうだけどあしたの朝には原作ファン・映画ファンからの酷評がネットにならぶ運命なのね』ってかんじの。

ところで、存在を抹消されたはずのスピードワゴンですが、チラリと出ていたと言う話も他所で見かけたんですが、画面の隅かモブシーンかで出てたんですかね。気付かなかったですが。(声優の話では無いと思うんだけど(笑))
数秒の出番で終わったタルカスとブラフォードには“気付きました”けどね(苦笑)

ところで2、「太平洋アメリカ航路」ってなんなんですかね?
イギリスからアメリカへの航路なので、原作では当然「大西洋上」と書かれているのですが(苦笑)

公式サイト

■今月のスティール・ボール・ラン
ウルトラジャンプを開くとジャイロと仗助のポスターで、何故この組み合わせ?と思ったら、他の本との合体ポスターなのですね。なるほどー。

本編は、「11人いる!」とジャイロ&ジョニィの対決で、11対2と言う、注意深く読まないと何人死んで何人残っているかも分からなくなるような、『漫画の画面に収まる限界ギリギリの多人数バトル』になっていました。
最後まで読んでも本当に11人全員倒せているのか断言し難いほどです(笑)(多分、最後に11人倒れてるのだと思いますが)

しかしまあ、この11人の刺客の人の「文字が散りばめられた頭」は凄いですね。ジョジョシリーズには今までも様々な『凄い』頭の人が出てきましたが、この刺客もかなり『歴代ジョジョキャラ変な頭ランキング』で上位に食い込めそうな人です。シルエットは普通なのに(笑)

ところで、街のど真ん中で派手に殺し合いをしてしまって問題にならないあたりが恐ろしい。そんなに無法な場所なのか?(^^;

今回もジャイロ達は派手に怪我をしてますが、それも「ただの糸」で直してしまうジャイロの生命力の素晴らしさに拍手です。「ゾンビ馬」すら使っていないのに(^^;

「刺客の撃退」も、「小娘との取引」も綺麗に一気にクリア、かと思いきや、「遺体」も使わないといけないとは、なんと殺生な。
確かに最初の「取引」の説明の際に「遺体は?」とはちょっと思ったのですが、どうすれば「遺体を使った」なんてことになるんですかねえ。誰かと「耳と右腕」を交換しないといけないのか?

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