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2007年4月 3日 (火)

蟲師(映画)

(大友克洋監督)

“生命の原生体に近いもの達”である「蟲」と人々の関わり合いを描いた、昨年にはアニメ化もされた漆原友紀氏の漫画の実写映画化作品です。

で、自分は原作ファンですが、…映画は辛かったですね。
『原作と違う』云々以前に映画として退屈で意味不明で辛かったです;
映画の日で1000円で見られて良かったと思いました。いや、1000円でもきついかと;

あまりに説明不足で『監督の世界』すぎて、
原作を知らない人にとってはイマイチ意味が分からず、
原作を知っている人にとってすら独自展開すぎて意味が分からないばかりか、ファンであればある程に腹が立つか脱力する映画なのではないかと思いました。
自分の場合は「ポカーン」としましたが、一緒に行った妻も「ポカーン」としておりました(苦笑)
あくまで私感ですが、この映画を楽しめるのは大友監督の“ビジュアル”のファンか、出演俳優のファンくらいかも知れないと思いました。実際は分かりませんが。

まあ、監督が大友克洋氏ということで、原作の雰囲気や展開がそのまま再現されるとはカケラも思っていませんでしたけどね。
『人々の心情や人生を、無情さの中にも優しさを込めて淡々と描いた』原作の漆原友紀氏の柔らかな作風に対して、
『超絶的に細かいディテール描写と圧倒的な絵の迫力で話を大局的に押し進めて、「個人の心情」はそれほど重視しない』大友氏の無機質な作風とでは、創作者としての資質や方向性が真逆だと思いますので。(どっちが良い悪いという事ではありません)

原作は漫画ファンにとってはそれなりに有名だと思いますが、一般的な知名度は低いと思いますので分かりやすく例えようとすると…
…えーと、「寄生獣の作者がドラえもんを実写で撮る」とか「北斗の拳の作者が少女漫画を描く」とかぐらいの資質の合わなさなのではないかと。
あまり上手い例えじゃないですが(^^;

と、見る前に一応覚悟はしていたはずなのですが、覚悟以上に“独りよがり”な映画になりすぎてしまっていたかと。
これに比べれば「スチームボーイ」の方がまだ観客の方を向いていた気もします。

なお、私は大友克洋氏については、
漫画家としてはともかく、正直映画制作者としてはあまり評価していませんので念の為。
「スプリガン」も「メトロポリス」も「スチームボーイ」も映像はともかく話はどれもイマイチでしたし。(まあ、スプリガンは監修でメトロポリスは脚本なんですけど)
大友氏には漫画家に戻るにせよ映画を作るにせよ、次は是非「オリジナル」で勝負して欲しいと切に思います。

映像は綺麗で「漫画原作実写映画」にありがちな「画面の安っぽさ」こそ少ないですが、
しかし、大友氏の漫画やアニメに比べれば「大友氏でなければ作れない」という独自性は感じませんでした。
やっぱり実写よりアニメの方が合ってるんじゃないですかねえ…
脚本は他の人に任せて欲しい気もしますが。(今回脚本も大友氏)

さて、映画にストーリーついては、
一話完結の短編である原作のエピソードを組み合わせて一本の映画を構成するというスタイでした。最近では映画版「どろろ」が近いスタイルだったかと。
原作が短編だから仕方ないですが、こういうやり方って映画として「一本の筋」が通しにくくてイマイチだと思うんですけどね。
そもそも長編の「映画」に向いてる原作では無いんですよ;

エピソードとしては「柔らかい角(真火の話)」「筆の海(淡幽の話)」「雨がくる虹がたつ(虹郎の話)」「眇の魚(ぬいの話)」という4つの話を選り抜いています。
「柔らかい角」を導入部として“蟲師”がどういう仕事かを紹介して、他の3編をベースに組み合わせて一本の話としているのですが、
ぶっちゃけ最初の「柔らかい角」以後は『原作をぶつ切りでベースにしただけ』の、ほぼオリジナル展開に突入します。
ここで話や人間関係を理解させる為に必要な事項の説明をすっとばしまくった上でオリジナル展開を加えた為に、基本的な事項が非情に理解し難くなってしまってる訳ですね;
そして最後には超展開で原作読者の理解すら拒むという。
原作と話が変わっても構わないんですが、映画としての筋は最低通して欲しいところです。

以下は感想というより原作ファンとしての愚痴で。
・人にとって良いものでも悪いものでもない“奇妙な隣人”であるはずの「蟲」が、映画ではほぼ「害を為す存在」として描かれていて一面的だなあと思いました。マシだったのは「虹蛇」の扱いくらいか?
・蟲の描写がほとんど「ホラー的」なんですよね。音楽の使い方とかもほとんどホラー映画。
・原作で感動的に終わったはずの出来事の“その後”を無理矢理作ってしまっていて、なおかつおどろおどろしい奇怪な扱いをしてしまっているのが非情に嫌悪感を感じました。「ぬい」の扱いの酷いこと。これには大事な物を汚された気分になりました。
・「淡幽とギンコの繋がり」も、何故に淡幽がギンコに惹かれているかの部分が描かれていないのが何とも残念。
・虹郎の出番がやたらめったら長いのは、単に「力仕事要員」が必要だったんでしょうか?、その力仕事が発生する理由も説得力が無いんですけどねー。
・出番が長いはずの虹郎ですが、彼が何故虹に拘るかも、その解決も満足には描かれていません。何のために登場させたんだろう。
・最初の「柔らかい角」のエピソードにしても、原作であった母親との絆といった要素は切り捨てられ、即物的にギンコが変異を解決するだけ。「蟲師」という仕事の紹介編としてはそれだけで十分だと判断したんですかねえ。
・ところで真火って女の子だっけ? 原作で「おれ」と言ってるのも、実は「ボクっ娘」みたいなものなのか? 知らなかった!(笑)

とりあえず、俳優については悪くはなかったと思います。
オダギリジョー氏のギンコは、どうもビジュアルが鬼太郎っぽいとは思いましたけど(笑)
淡幽役の蒼井優も、原作とのイメージは違いますが綺麗でしたし。

本作といい「ジョジョ」といい、『原作もこんなものかと思われてはやりきれない原作付き映画』が続きますね。
原作ファンにとっては受難の年でしょうか。
まあ、去年は去年で大物の「ゲド戦記」とか、「笑う大天使」とかありましたけどね。

公式サイト

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コメント

でんでん様のレビューが、一番しっくりきます。大友克洋の作風の説明、本当にそうですね。
”超絶的に細かいディテール”や”圧倒的な絵の迫力””無機質”だし”個人の心情”はそれほど重視しない...私も思います。
私は映画を観ていないのですが(スチームボーイは観たのですが)正規料金で観るには、怖いし、ツライ...。
DVDでチェックします...。

投稿: あん | 2007年4月 4日 (水) 09時00分

一言で言って「食い合わせが悪かった」ですよ、見る前の懸念通り。
安く見れる手段があるのでなければ、
「これまでの大友映画を見た上でそれが好き」という人以外にはお勧めは出来ないですねえ(^^;;

投稿: でんでん | 2007年4月 4日 (水) 23時47分

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